インボイス制度‐第6回(インボイス交付・保存の義務免除)
はじめに
インボイス制度では原則としてインボイスと帳簿の保存が仕入税額控除の要件となりますが、事業の性質上インボイスの交付が困難な取引があり、インボイスの交付・保存の義務が免除される特例が設けられています。第6回はインボイスの交付・保存義務の特例について解説していきます。
Ⅰ.インボイスの交付義務が免除される特例
売手側においてインボイスの交付義務が免除されている取引は以下の通りです。
① 卸売市場等を通じた委託販売
出荷者(農家や漁師等)が卸売市場等を通じて生鮮食料品等を委託販売する場合、売手及び買手はお互いの特定が困難なため、インボイスの交付義務を免除しています。また、買手は卸売市場等が発行するインボイス等の保存で仕入税額控除の適用が認められています。
② 農協を通じた委託販売(漁業・森林組合・事業組合等も対象)
生産者(農家や漁師等)が農協等を通じて「無条件委託方式」かつ「共同計算方式」によって農林水産物を委託販売する場合、売手及び買手はお互いの特定が困難なため、インボイスの交付義務を免除しています。また、買手は卸売市場が発行するインボイス等の保存で仕入税額控除の適用が認められています。
③ 公共交通機関による旅客の運送(3万円未満)
公共交通機関のうち船舶、バス又は鉄道の運賃のうち3万円未満の取引についてインボイスの交付義務を免除しています。なお、飛行機、タクシーの運賃は対象外となります。また、3万円未満の判断については1回の取引の税込総額での判断となり、1回の取引が4人分の運送役務の提供であるならば、4人分の合計額で判断することになります。
④ 自動販売機等による商品販売(3万円未満)
3万円未満の自動販売機や自動サービス機による商品の販売等で、その機械装置で代金の受領と資産の譲渡等が完結する取引はインボイスの交付義務が免除されています。例えば、自動販売機による飲食料品の販売やコインランドリー等のサービス提供が該当します。一方で、セルフレジを通じた販売やコインパーキングでの支払などは、代金の受領のみを機械装置で行っているだけなので該当しません。
⑤ 郵便切手を対価とする郵便サービス(郵便ポストに差し出されたものに限る)
郵便サービスであっても、窓口で受け付けたものや、郵便切手を対価としない宅配業者によるサービスについては対象外となります。
Ⅱ.帳簿の保存のみで仕入税額控除ができる特例
インボイスの交付を受けることが困難な取引については帳簿の保存のみで仕入税額控除の適用が認められます。対象取引は以下の通りです。
1.インボイスの交付が免除される特例のうち③④⑤に関する取引 2.入場券等が使用時に回収される取引 3.古物商、質屋又は宅地建物取引業等が仕入れる古物、質物又は建物等 4.再生資源又は再生部品を購入する取引 5.従業員等に支給する出張旅費等 |
また、この場合は帳簿に以下の記載が必要となります。
・どの特例取引に該当しているか(「公共交通機関(3万円未満)」など)
・取引の相手方の住所又は所在地等
おわりに
第6回はインボイスの交付・保存義務の特例について解説していきました。現行制度は3万円未満の少額取引は帳簿の保存のみで仕入税額控除ができました。しかし、インボイス制度では原則的に少額取引でもインボイスの保存が必要となり、帳簿の保存のみで仕入税額控除ができる範囲は限定的となりますので、経理処理にあたり注意が必要となります。